人事・産業保健ご担当者様へ

目次

高ストレス者が面接指導を申し出ないのはなぜか

申出を増やす6つの設計

ストレスチェックは毎年実施できている。それでも、面接指導の申出はほとんど上がってこない。臨床心理士・公認心理師として企業の相談窓口を受託してきた立場から、申出が出ない構造的な理由と、実務で変えられる設計を整理します。

約10%
受検者に占める高ストレス者
76.8%
申出率が5%未満の事業場
2028年4月
50人未満の事業場も義務化

実施率は上がった。活用は追いついていない

厚生労働省の資料では、高ストレス者のうち医師による面接指導を申し出る人の割合が5%未満にとどまる事業場が76.8%を占めています。標準的な判定基準では受検者のおよそ10%が高ストレス者になる設計ですから、従業員300人の事業場ならおよそ30人が高ストレス者と判定され、そのうち面接指導につながるのは1人か2人という計算になります。

この数字を「本人が希望しないのだから仕方がない」と読むか、「申し出られない仕組みになっているのではないか」と読むかで、翌年の運用は大きく変わります。実際に相談窓口を受託して面談していると、申出が出ない理由のほとんどは本人の意欲ではなく、申出という手続きの置かれ方にあります。

申出が出ない7つの理由

面談の場で実際に語られる、申し出なかった理由

1

申出書が人事を経由している

申出書の提出先が人事や上長になっている場合、申し出ることは「調子が悪いと会社に自己申告すること」と同じ意味になります。守秘義務が形式上は守られていても、誰が封筒を受け取るのかを本人は現実的に見ています。

2

記録が評価や異動に影響すると思われている

「面接指導を受けた」という事実が人事記録に残り、昇進や配置の判断材料になるのではないかという懸念です。法令上は不利益取扱いが禁止されていますが、そのことが従業員に伝わっていなければ抑止力になりません。

3

高ストレス者という結果を本人が受け入れていない

「この時期は誰でも忙しい」「たまたま調子が悪い日に答えただけ」と結果を切り離す反応は珍しくありません。自覚がない場合と、認めると働き方を変えなければならないので認めたくない場合の両方があります。

4

面接指導で何をされるのか分からない

最も多い誤解が「診断されて休職させられる」というものです。何を聞かれ、どこまで記録され、結果として何が起きるのかが示されていないと、人は最も避けたい結末を想定して判断します。

5

相手が「医師」であることのハードル

産業医面談は「病気の人が行くところ」と受け取られがちです。まだ受診するほどではないと自分で判断している段階の人にとって、医師と話すという入口は実際よりも重く感じられます。

6

申出の期限が短く、迷っているうちに過ぎる

結果通知から2週間程度で締め切る運用が多く、迷っている人はそのまま期限を越えます。ストレスが高い状態にある人ほど、新しい手続きを始める気力が落ちていることが見落とされがちです。

7

そもそも申出方法が分かりにくい

結果画面のどこに申出ボタンがあるのか、紙の場合は誰に渡すのか。導線が一つ増えるだけで実行率は落ちます。案内文が長く、制度説明が先に来ているほど読まれません。

「申出方式」そのものが機能しにくい

7つを並べると、共通しているのは本人の意思の弱さではなく、申し出るという行為に不利益の可能性が結びついていることです。制度は本人の申出を起点に設計されていますが、ストレスが高い状態にある人に自ら手を挙げてもらう前提は、実務上かなり無理があります。したがって改善の方向は「申し出るよう促す」ではなく、申し出なくても支援につながる導線を用意することになります。

申出を増やす6つの設計

運用の枠組みを変えるだけで、申出率は変わります

🔀

申出ルートを人事から切り離す

申出の受付を外部の相談窓口に置き、人事は「誰が申し出たか」を知らない設計にします。守秘の約束を、運用の形で見えるようにするのが要点です。

🗣

「結果の説明を聞く場」と位置づける

面接指導という名称のまま案内すると、治療や休職の入口に見えます。まず結果の意味を一緒に確認する場だと伝えるだけで、心理的な敷居は下がります。

申出方式ではなく辞退方式にする

高ストレス者全員に日程を仮設定して案内し、都合が悪い人が辞退する形に変えます。手を挙げる必要がなくなり、受けることが例外ではなくなります。

🧑‍⚕️

心理職による一次面談を前に置く

医師面談の前段に公認心理師などによる面談を置き、必要な人だけを医師につなぎます。医師の負担も減り、受診が必要な人の見極めも早くなります。

📄

面談の中身を事前に明示する

所要時間、聞かれること、記録の範囲、会社に伝わる内容と伝わらない内容を1枚にまとめて同封します。想像による不安を、情報で置き換えます。

📊

集団分析を職場改善につなげる

部署単位の結果を業務量や勤務時間と照らして改善に使えば、個人の申出に依存しない対策になります。個人の手挙げを待つ運用の限界を補う柱です。

2028年4月、50人未満の事業場も義務化される

2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にもストレスチェックが義務づけられます。施行日は2028年4月1日とされています。小規模な事業場では産業医の選任義務がなく、面接指導や相談の受け皿を外部に求めることが前提になります。

つまりこれから増えるのは「実施はしたが、その先の体制がない」事業場です。実施の準備と同時に、結果を受け取った人がどこにつながるのかまで設計しておくことが、義務化への実質的な備えになります。すでに実施できている事業場にとっては、申出率の低さを見直す時期がちょうど重なります。

ご相談ください

外部相談窓口の設置、高ストレス者への一次面談の受託、案内文や申出フローの設計、集団分析結果の読み解きと職場改善への落とし込みまで、臨床心理士・公認心理師の立場からご一緒に検討します。導入の進め方は導入までの流れ、これまでの支援内容は実績・事例をご覧ください。

まずは現状の運用をお聞かせください。初回のご相談は無料です。

お問い合わせ・ご相談

監修:宮碕 景悟(公認心理師・臨床心理士)/ プロフィール

出典:厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」(2022年3月)、改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布)

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