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「相談窓口はある」で、もう対策は済んでいますか
パワハラ防止措置と予防研修、法律が求めている本当のライン
「うちは相談窓口も作ったし、就業規則にも書いた」——そこまでやっていれば、法律上の最低限は満たしているかもしれません。でも「研修までやる必要があるのか」は、実は多くの担当者が正確に説明できないところです。義務と推奨の境界線を、一次情報から整理します。
パワハラ防止法、中小企業への適用はもう始まっている
「うちは50人未満だから」「まだ猶予があるはず」——ストレスチェックの話とハラスメント対策の話を、混同していないでしょうか。労働施策総合推進法、いわゆる「パワハラ防止法」に基づく職場のパワーハラスメント防止措置は、2020年6月1日に大企業で義務化されたのち、2022年4月1日からは中小企業にも義務化されています。従業員規模を問わず、すでに全事業主の義務です。
この法律を受けて、厚生労働省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)を定めています。指針が「講じなければならない」としている措置は、大きく分けて4つです。(1)パワハラを許さないという方針の明確化と周知・啓発、(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための体制の整備、(3)ハラスメントが起きた際の事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止策といった事後の迅速かつ適切な対応、(4)相談者・行為者のプライバシー保護と、相談したことを理由とした不利益取扱いの禁止の周知——この4つは、規模に関わらず「やらなければならない」ものです。
研修は「義務」なのか。ここを曖昧にしたまま進めない
ここで多くの担当者が引っかかるのが、「研修は法律上の義務なのか」という点です。正確に言うと、指針の条文自体に「研修を実施しなければならない」という直接的な義務規定はありません。研修は、上記(1)の「方針の周知・啓発」を実効あるものにするための手段のひとつとして、指針が例示しているものです。加えて指針は、感情のコントロールやコミュニケーションスキル向上のための研修などを「望ましい取組」として別途挙げています。つまり研修は、法律の条文上は義務ではないものの、義務である「周知・啓発」を実際に機能させるための、事実上もっとも確実な手段として位置づけられている——ここが正確なラインです。
罰則の面でも、パワハラ防止法そのものに罰金や刑事罰の規定はありません。措置を怠っていることが分かった場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告という行政指導の枠組みがあり、勧告に従わない場合は企業名を公表することができる、と法律に定められています。企業名公表の実例は今のところ広く報告されていませんが、「公表されるかどうか」よりも重い現実があります。厚生労働省の令和5年度実態調査では、過去3年間でパワハラの相談件数が「増加している」と答えた企業が19.6%、「変わらない」が30.2%、「減少している」が21.8%でした。相談窓口を作ってからも、案件そのものが減るとは限らないということです。措置を怠った企業が民事上の損害賠償責任や安全配慮義務違反を問われるケースは、罰金の有無とは別に、現実のリスクとして存在します。「罰金があるかどうか」ではなく、「何かあったときに、何をしていたと言えるか」で備えるべき理由がここにあります。
予防研修で押さえるべき実務ポイント
「やった」で終わらせず、機能する研修にするための3つの視点
「義務」と「望ましい取組」を混同しない
相談窓口の設置、就業規則への明記、事後対応の体制づくりは法律上の義務です。研修は、それを現場で機能させるための手段だと整理した上で設計すると、「何のためにやるのか」が社内に伝わりやすくなります。
管理職向けと一般社員向けを分ける
指針が示す「優越的な関係を背景とした言動」の考え方や、指導とパワハラの境界線の判断は、管理職に特に必要な内容です。一般社員には、相談の仕方や、周囲が傍観者にならないための視点を分けて設計する必要があります。
単発で終わらせず、記録を残す
指針は運用状況の検証(アンケート調査や意見交換など)を「望ましい取組」として挙げています。定期的に実施し、いつ・誰に・何を伝えたかを記録しておくことが、後から「何をしていたか」を説明できる備えになります。
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監修:宮碕 景悟(公認心理師・臨床心理士)/プロフィール
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和5年度厚生労働省委託事業)、厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)
