人事・産業保健ご担当者様へ|パート2(日本編)

目次

日本のEAPはいま何が起きているか|整備率35.8%、利用率1.9%、そして2028年

前回のパート1(世界編)では、世界のEAP利用率が2〜3%にとどまっていることを見ました。今回は日本の状況を同じように整理しました。先に結論を言うと、日本は世界と同じ問題を抱えていて、その上に日本特有の事情がもう一段乗っかっています。

1. 日本の現在地を3つの数字で

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82.7%

仕事や職業生活に関することで強い不安やストレスを感じる事柄があると回答した労働者の割合(厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」)。ほとんどの働く人が該当します。

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約35.8%

EAP(従業員支援プログラム)を整備していると報告されている事業所の割合。裏を返せば6割以上の事業所には外部の相談体制がありません

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約1.9%

外部EAPの利用率の推計値。パート1で見た世界の2〜3%と、ほぼ同じ水準です。制度を導入した企業の中でも、実際に使っているのは50人に1人程度ということになります。

この3つを並べると、何が起きているかがはっきりします。ストレスを感じている人はほぼ全員。体制がある企業は3社に1社。実際に使う人は50人に1人。困っている人はいるのに、受け皿がない。受け皿があっても、そこまでたどり着かない。二段階で人が漏れています。

2. 世界と同じ問題|「契約しても使われない」

パート1で紹介したとおり、従来型EAPの利用率が2〜3%にとどまるのは世界共通の現象です。日本の1.9%という推計値は、この国際的な水準の範囲内にあります。

つまりこれは、日本人が我慢強いからでも、社内周知が足りないからでもありません。「困った人が自分から手を挙げて、顔も知らない相手に電話する」という仕組みそのものに無理があるということです。私はここが一番大きいと思っています。

パート1で紹介した米国の事例では、相談内容に応じて適切な支援先へ案内する仕組みを入れただけで、利用率が11か月で2%から16%まで上がりました。周知を頑張ったのではなく、入口の交通整理をしただけです。これは日本でもそのまま使える考え方だと思います。

3. 日本固有の事情|法令が対策を動かしている

日本の職場メンタルヘルスの一番の特徴は、企業が自分で決めて始めるのではなく、法律が先に動かしていることです。海外では人材確保や費用対効果を考えて企業が投資する流れが中心ですが、日本はまず「義務だからやる」から入ります。ここが根本的に違います。

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ストレスチェック制度(2015年〜)

労働者50人以上の事業場に年1回の実施が義務づけられました。おかげで実施率は一気に上がりました。ただ同時に、実施すること自体が目的になりやすい構造も生まれてしまいました。

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2028年4月1日|50人未満にも拡大

2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックが義務づけられます。施行日は2028年4月1日です。

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小規模事業場には受け皿がない

50人未満の事業場には産業医の選任義務がありません。実施はできても、その先の面談を誰がやるのかが決まっていない企業が、大量に生まれることになります。

4. 制度はあるが、機能していない

高ストレス者の申出率が5%未満の事業場が76.8%

厚生労働省の資料によると、ストレスチェックで高ストレスと判定された人のうち、医師による面接指導を申し出た割合が5%未満にとどまる事業場が76.8%を占めています。

標準的な判定基準では受検者のおよそ10%が高ストレス者になる設計です。従業員300名の事業場なら30名前後が該当し、そのうち面接指導につながるのは1〜2名という計算になります。

これは制度が「実施するところまで」しか作られていないからです。実施したかどうかは法律で担保できますが、その結果をどう使うかは各社の運用任せになっています。詳しくは高ストレス者が面接指導を申し出ないのはなぜかで7つの理由と改善策を整理しています。

5. 日本のEAP市場の構造

価格は1人あたり月100〜500円が目安

従業員数に応じた課金が主流です。1,000人規模なら月10万〜50万円という水準になります。一方で、この価格帯では1人あたりに割ける時間は限られます。

電話・オンライン窓口が中心

全国どこからでも受けられるようにするため、コールセンター型が主流です。担当者は基本的に毎回変わります。規模を出すには合理的なやり方なのですが、「誰が出るか分からない」ことが利用率を下げている面もあります。

実施と支援が分断されている

ストレスチェックの実施ベンダー、EAP事業者、産業医、人事がそれぞれ別々に動いていて、情報が横につながっていない会社が本当に多いです。

中堅規模に空白がある

従業員300〜1,000名規模では「産業医は月1回、保健師なし、EAPは電話番号だけ」という状態が珍しくありません。常駐させるには高すぎる。かといって電話窓口だけでは使われない。ちょうどこの間が空いています

6. これから3年で何が起きるか

1️⃣

実施できる企業は一気に増える

2028年に向けて、実施サービスを提供している会社が小規模事業場向けの安いプランを出してくるはずです。実施のハードルはどんどん下がります。

2️⃣

「その後」の格差が広がる

実施が当たり前になるほど、結果を活かせる会社と実施して終わる会社の差が開きます。高ストレス者が出たときに誰が対応するのか。ここが問われるようになります。

3️⃣

専門職の不足が顕在化する

パート1で触れたとおり、行動保健の専門職不足は世界的な制約です。日本でも、需要が一気に増えたときに対応できる心理職や産業医の数には限りがあります。早めに動いた会社から順に埋まっていくと思います。

7. 人事担当者が今できる5つのこと

1. 自社の利用率を数字で確認する

まず契約している窓口の年間利用件数を出してみてください。従業員数で割って2%を下回っていたら、それは全国平均どおりです。つまり普通なのですが、逆に言えば一番伸びしろがあるということでもあります。

2. 申出ルートを人事から切り離す

申出書の提出先が人事や上長になっていないかを確認します。外部窓口を経由する設計に変えるだけで、相談のハードルは大きく下がります。

3. 申出方式ではなく辞退方式にする

高ストレス者全員に日程を仮設定して案内し、都合が悪い人が辞退する形にします。手を挙げる必要がなくなります。

4. 集団分析を職場改善に使う

個人の申出に依存しない対策です。部署単位の結果を業務量や勤務時間と照らして読み解けば、個人が特定されない形で手を打てます。

5. 50人未満の事業場を数える

自社に50人未満の事業場がいくつあるか、数えてみてください。2028年4月にはその全部が対象になります。準備しなければいけない量が、この数字で決まります。

ご相談ください

集団分析の読み解き、高ストレス者への一次面談、申出フローの設計まで、臨床心理士・公認心理師の立場からご一緒に検討します。初回のご相談は無料です。

お問い合わせ・ご相談

出典

・厚生労働省「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」(強い不安やストレスを感じる労働者の割合 82.7%)・厚生労働省「ストレスチェック制度の効果的な実施と活用に向けて」2022年3月(面接指導の申出率が5%未満の事業場 76.8%)・改正労働安全衛生法(2025年5月14日公布/50人未満の事業場への拡大は2028年4月1日施行)・EAP整備事業所の割合(約35.8%)および外部EAP利用率の推計(約1.9%)については、労働安全衛生調査をもとにした各社の二次分析を参照しています。定義や算出方法が公表されていない部分があるため、参考値として扱ってください。・世界の状況についてはパート1(世界編)および Mordor Intelligence「メンタルヘルス・EAP技術プラットフォーム」2026年5月発行を参照

※ 本記事は公開されている統計・調査資料をもとに当オフィスが整理したものです。数値は引用元の公表値または推計値であり、当オフィスが独自に検証したものではありません。

監修:宮碕 景悟(公認心理師・臨床心理士)/ プロフィール 関連記事:パート1・世界編高ストレス者が面接指導を申し出ないのはなぜか

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